Sunday, 1 December 2013

福島旅行記のまとめ

前口上から

2011年の7月後半、僕は一泊二日で福島の友達のとこへ遊びに行きました。
 
その後、8月2日から8月18日にかけて、そのときのことをツイッターに連載?しました。
これはその時の会話を中心にまとめたものです。
 
しかし、これは基本的に僕の記憶をもとに書いていて、このとおりの会話をした、とはとても言えません。
また、そのような会話は確かにしていますが、その会話をした場所を変えるなどの"編集"を意図的におこなった部分もあります。
(それらの改変はツイッターの制限文字数に落とし込むという意味もありました)
 
何より重要なことは、これは震災から4か月後です。
まだまだ混乱が収束していない、情報が錯綜していた時期です。 
 
当然、友達と二人で震災のことと共に、原発事故に関する話をしています。
しかし、もちろん、二人とも一般人、原発についての素人です。
(もちろん、友達は原発の事故以来、福島市の住人として原発の事故と向き合い続けていたわけですが) 

これらは、そんな時期の素人どうしの会話だ。
それを念頭において読んでほしいです。
 
(これはもともとツイッターに分載したものだ、も。)


 
・・・・・・・・・

 
 
そして、その時期ははっきりしないんですが(2012年の夏頃だったと思います)。 

「今、僕は福島の原発事故についてこう思う」
 
確か(ここも不確かです)、ある方へのメールで書きました。

ちなみに不確かな理由は簡単です。
これはgmailだったと思うんですが、アクセスするパスワードを忘れちゃってアクセスできず確認できないんです(笑) 
ただ、わりとその"下書き"は残っている、と。  
 
この考えは今も変わっていないので、時期は逆になるのですが、それをまず再掲?します。
 
あと、今回、文章の変更、追加も少しおこなっています。
そのまま、では決してありません。
 
 

・・・・・・・・・

 

僕は、原発は徐々になくなるほうにいくほうがいいな、と思っています。

ただ、「福島は危険だ」とか、そんな馬鹿な、とも思います。

もちろん、この事故の影響に対して安心しすぎるのは危険だと思います。
なにより現実に危険な場所が、それこそ、これから長い間立ち入りがむずかしい場所が現実に存在する。
それは事実です。

しかし「福島は危険だ」とか、そんな馬鹿な。
 
 
なんとなく、僕のクセとして、〇〇は〇〇、みたいなのには違和感を感じます。
当然、〇〇は〇〇な現実も世の中にはあるのでしょう。
しかし今回の事故に関しては、「正確に怖がろう」という言葉がいちばんしっくりきます。
怖がり所さえ間違えなければ、現実の福島は何の問題もなく暮らしていける環境だと思います。

 
「正確に怖がろう」 

そのためにも、正確な情報の発信と受信がとても大切になるだろうと思います。
正確な情報を発信できる専門家の方の役割がとても大切になると思います。 
もちろん素人の僕には何が正確な情報か、自力で判断することはまず無理です。
だから、専門家が出した正確な情報を、それが正確な情報であると判断できる専門家の役割もとても大切になる、そう思います。


しかし、これは結局、素人は個々人が「この人が正確な情報を出している」「この人が正確な情報を紹介している」と自分の直感で判断するしかない。そう言っているのと同じだ、と自分でも思います。
とどのつまり「この人の言うことを信用しよう」とそれぞれがそれぞれに思うことにすると。

「誰が正確なことを言っている?」 

もちろん、これは専門的な知識がない素人にとっても、長い年月が答えを出して解決することなんでしょう。
しかし問題にすべきは今。
だから今は「この人の言うことを信用しよう」とそれぞれがそれぞれに思うことにする。

で、僕が信用することにした人の意見をきき、判断した結果。
それが、"怖がり所さえまちがえなければ、現実の福島は何の問題もなく暮らしていける環境だと思います"です。


ただし、真逆の判断をする素人も多いでしょう。
 
素人にとっては、この問題は感性の問題になるのかも(笑)
 
まあ、それぞれの話を聞いていれば、もう事故から一年以上ですし、それを聞いていれば、だいたいわかりそうなもんだ、と僕は思います。
しかし、それも僕の感性かもしれません。

ただし、最近は僕と同じ感性の人の声がめだってきたかな?という気もします。
めだつ、ではなく、ふえた、なら、感性の問題ではないですね(笑)


とはいっても、一度事故がおこってしまうと、(たとえば)実際にはどれだけ安全だとしても、結局は周囲の大勢の人達が生活を壊され、多大な苦難に直面することになる。
これは絶対に避けられないでしょう。

原発というものの宿命かもしれません。

だから僕は素人考えで、原発は徐々になくなるほうにいくほうがいいな、と、思っています。

 

・・・・・・・・・



「よ、久しぶり!」
「お、ようこそ福島へ。あれ?俺が東京に住んでた頃以来だから五年ぶり?ま、車乗りなよ」
「あ、ビートルズ聴いてんの?」
「ん、やっぱりなんか聴いちゃうんだよね」
「そ、俺もちょうどビートルズ聴きながら来たんだよ」
「そうなの?何聴いてたの?」
「アルバムだとリボルバーとマジカル、あとはワイルマイギターとかドライブマイカーとかちょこちょこっと。あ、最近はグッドナイトが妙に好きでよく聴くね」
 


「ホワイトアルバムが好きなんだっけ?」
「いや別にそーいうわけでも、で、今かかってるのはサージェントと、これ青盤か?」
「うん、このへん、つうか中期ビートルズがやっぱり一番好きだね。で、福島はどこ行きたいの?」
「んーやっぱり海のほうかな?遠いの?」
「いや、そうでもないよ、山道だけど。ただその道、放射線量結構高いから。ホットスポットあるし。こう山ぞいに風が原発のほうから流れてきちゃうんだよ」
 
「やっぱり普段から放射能は気になるよね?」
 
「んーでもねー段々慣れるっつうか麻痺してきちゃうとこもあるんだよね、別に大丈夫じゃないかって。よくないんだろうけどね。でも神経質になりすぎても生活できないしさ。こんだけ放射能が漏れた。まあ、まだ止まってないけどさ、その影響なんて誰にもわかるわけないんだよね。だってこんな事故今までなかったんだからさ。結局、俺ら自身の体で今後あきらかにするしかないんだよね。つうわけで海目指すよ、ホットスポット通るけどいいんだよね?」
 
「いいよ」



「海ってよく行くの?」
「震災前はね。仙台か海か、このへんだと休みに遊びに行く場所なんて限られるしさ。でも、それからは一度も行ってない」

「知り合いとかいるよね、みんな無事だった?」
「いや、よく飯を食べに行ってたお店の人が消息不明。全くわからず。お店も自宅も海のすぐそばだったからね。新聞にさ、身元不明者の情報、服装とか、凄く細かくのってるんだ。毎日、目をこらして読んでたよ。でも、そんな人多かったよ、俺だけじゃなく。とにかく何かわかれば。でもね、あの日は寒かったんだけどね、着ていた服装とか、それこそ下着の色とかさ、細かく書いてあって、それを読むだけでかわいそうになるよ」
 
 
 
「あのさ、しつこいけどさ、俺はいいんだけど(カーナビを操作して)海に行くにはここ通るしかないんだ。(計画的避難区域と同じレベルだったかな)ここは放射能の溜まり場になってて今でも結構線量高いんだよ。あのクルっと回った円なんてあんまり関係ないからね、高いとこは高いよ、マジでいいの?」
 
「いいよ」
 
「そういえばビートルズ再結成って話あるよね」
「え!?そうなの!?最近うとくて、でもポールとリンゴでビートルズ?それもなんだかなぁ」
「じゃあもし再結成しても観たくないか?」
「むちゃ観たいよ」
「何だよ、あ、このへんだね、ホットスポットは」
「ここ?」
「うん」
「全くわかんないね」
「そりゃそうだよ、放射能目に見えないし。でもね、公表されてるホットスポットは数ヵ所だけどさ、実際は福島市内とかも含めてもっとあるよ、俺ん家とかね(笑)」
 
「何?やっぱりそれは自主的に調べてわかったの?」
「ま、俺もそうだけどさ、自分の命が危険にさらされりゃ、そりゃ誰だって真剣に調べるよね」

「このあたりに住んでる人はみんな避難されてるのかな?」
「のはずだよ、でもさ最近は避難した家を狙った空き巣がふえてるんだ。そうじゃなくてもさ、家とか土地とか財産全部を放射能に汚染されてさ、へたすりゃ全部駄目になっちゃうんだよ」
 
「除染とか・・・。」
「できればいいんだけどね」

「ん、ちょっと待って。空き巣ってさ、へたすりゃ高濃度に汚染された盗品がどこかに流出してるかもってことか?」
「物盗りは金になれば放射能は関係ないからね」
「うーん大丈夫と思いたいね。そんなに空き巣増えてるの?」
「ニュースになるくらいにはね」 
 
 
「でも、やっぱり道路工事そこここでやってるね」
 
「道路はずいぶん綺麗になったよ。震災直後はどこも酷かったけど。で、このままいくと六号線てのにぶつかるんだ。右に曲がると原発に向かうんだけどさ、その六号線てのがラインなんだ。そこを挟んで向こうとこっちで津波の被害がまったく違って、もちろん場所にもよるんだけどさ、そこ越えたり・・・。このへんに友達が住んでるんだけど、六号線のすぐこちら側にパチンコ屋があって、もちろん最初は営業なんてできなかったけど、当然再開するよね、仕事なんだから。で、再開てなったらさ、そりゃ人来るよね。六号線を挟んで、その朝店の前には行列ができててさ、こっちには普通の生活があって。なんか残酷だったって。誰がってわけじゃなく。そういう状況が」
  
 

車の残骸などがあちらこちらに点在していましたが、瓦礫などはかなり片付けられていました。
この町によく遊びに来ていた友人は車を走らせながら「自分が今どこを走っているのかわからない」といいました。
 
「あのあたりにそのお店があった」
 
海まで何もありませんでした。松でしょうか?海沿いに何本かたっているのが遠望できました。
ひしゃげた信号機を見て、少なくともあんな高さまで水が来たんだと思いました。海水浴場に行くと海は穏やかでした。



・・・・・・・・・



「でもあれだね、このあたりはまだ道路通行止めって多いんだね」
「え?ああ、あの看板?あれ違うよ、震災直後に道路を通行止めにして、そのままなんだよ」
「え?そうなの?」
「だって普通に車通ってるじゃん、看板よけながら」
「あ、ほんとだ」
 
 
「雨降ってきたな。もう被災地はいいよね、車でウロウロするのはいい気分しないよ。とりあえず仙台に行くってことで」
「遠いの?」
「このまま六号線北上して四号線に入って二時間くらいかな?」
「仙台も地震の被害すごかったんだよね」
 
 
「うん、俺は地震の時仙台市内にいたんだけどさ、もうわけわからなかったよ。本震だけじゃなくて余震もでかいのが次々とおこってさ。でも地震ですぐに仙台の街全体が停電になっちゃったけど、俺が停めてた駐車場のゲートが手動で開くとこでラッキーだったよ。それで身動き取れなくなった人も結構多かったからね」
 
「で、急いで福島帰ろうとしたんだけど、道路も被害うけてるし、大渋滞だし、でかい余震は続くし。普通、車運転してたら地震って気づかないこと多いじゃん、もうはっきりわかったからね地面揺れてるのが。それに家族に連絡しようとしても電話は通じないし、ホントに何が何やら、仙台空港に向かう道には凄い数の警官がいるしさ。とんでもないことになってる、てことはわかったけどさ」
 
 
  
「仙台は津波の被害も」
「うん、すぐそこまで被害にあってるよ」
「そういうのって」
「わかんないよ、市内も地震直後は混乱しまくってたし、少なくとも俺はわからなかった」
「じゃあ、もう本当にわけもわからないうちに津波に巻き込まれた人も沢山いたんだろうね」
 
 
「俺がね、福島に帰ろうと、この辺りに来たときはもう夜だったんだ。真っ暗。車のライトくらいでさ。でも友達がまだ明るい時間にこの道を通ったんだ、そうしたらたくさんの人がね。俺は通るのが夜になってよかったかもしれない。ところでさ」
「ん?」
「お前生まれ長崎だよね」
「うん、長崎市じゃないけど」
「原爆」
「うん」
「いまでも原爆の差別とかあるのかな?」
「聞いたことある?今の話として」
「ないけど」
「ないよ。まったくない」
 
 
 
「今日は車降りると雨止んで乗ると降るな、逆じゃなくてよかった。でも仙台、地震直後の話聞いてたからもっと被害が残っていると思ってたよ」
「この辺は中心地だからね、復興は早かったよ。それに日本の建物は基本地震には強かったんじゃない?」
「あれは違うよね?」
「あれは七夕祭りの準備だね。駅ビルの地下にレストラン街あるからさ、何か食べようよ」



「ここでいい?牛タン」
「いいよ。あ、ビートルズかかってる。しかも中期。誰もかれもがビートルズ。あれかね、その再結成てので皆思わず、な、わけないよな」
「うん、当然好きで聴いてるんじゃない?まあこれは店のBGMだけど」
「そりゃそうだよね。あ、そういえばツイッターでさ」
「あれ?ツイッターやってんの?俺は何が楽しいのかわかんないんだけど」
「うん、別にやんなくていいと思うよ。んでさ、俺も基本フォローしてる人のツイートを読むくらいなんだけどさ、そこに、リツイートでだったかな?"音楽に疲れたらビートルズを聴く"、てのがあってさ、我々は疲れているのでしょうか?」
「疲れているだろ」
「そりゃそうだ(笑)」


 
「あ、お前YouTube消した?何か自作の曲アップしてるとか言ってたじゃん。覗いたけどなかったぞ」
「あれ移動したんだ。東京帰ったらアドレスメールするよ。ま、別に新しい曲アップしたわけでもないから無理して聴かんでもいいけど」
「で、アップして何か世間的に反応あったの?」
「海外から小反響があったよ。ほぼスパムだけど。でも三四人は本当に気に入ってくれたみたい」
「でさ、帰りなんだけど、高速で帰ろうと思うんだ。でもどうかな?今福島県民は被災証明書を提示すれば高速料金無料なんだ。だからみんな高速を利用して逆に渋滞しちゃってるかもしれないんだよね」
「平日だし、大丈夫じゃない?」



「スムーズに流れてんじゃん」
「だね。でもね、この高速道路も地震で被害うけたんだけど、この道が文字通り震災直後の福島の生命線だったんだ。この道を運ばれてくる物資で生きのびた、みたいな。もちろん今でもだけど」
 
「やっぱり電気とかライフラインは全部駄目だったの?」
「場所によって違いはあると思うけど、俺んとこは復旧まで電気三日、水道一週間、ガソリン一ヶ月てとこかな?その日もやっとこさ家に帰り着いて、ロウソクの灯で生活するのはまだよくて、水がとにかく貴重で一週間手も洗えなかったのがきつかったね」


「とりあえずホテルに送ってくからさ、で、近くによくいく居酒屋があるからそこで飲もうよ。車は代行頼むから」
「そのへんだとやっぱある程度線量高いのかな?」
「基本的に水素爆発前の三十倍くらじゃないかな?今、俺が頭で計算してみてだけど。もちろん溜まっちゃうとこはもっと高いと思うよ。だからさ風通しがいい場所で放射線量はかってもあんま意味ない気もするんだよね。もう地べたの風通しが悪そうな場所ではかんないと。そういうとこが高いんだから」
  
 
「テレビとかで今日の放射線量とか細かくやるわけ?」
「細かくはないね、かなり大まかだよ、細かくは町内会の回覧板とかでやるしかないみたい」
 
「で、自分で家の線量はかったんだよね」
「うん、検査するやつ人に借りてね。あれ結構値段高いんだよ。で、45マイクロシーベルト」
「はかり間違いじゃないの?」
「だって数値で出るんだよ。体温計みたいなもんだよ。つうても本当に庭のごく一部、吹き溜まりみたいなとこがピンポイントで高くなっているんだけど。ま、そのピンポイントが庭に何カ所かあるんだけどさ。でもそれ以外は本当にそこまででもないんだよ。家の中は線量ガクッとさがってさ、0.2マイクロシーベルト位。外は呼吸してるレベルでそれの約6倍くらいかな。まあ、あくまで俺の生活環境レベルの話だけどね」
「除染は?」
「現実問題、自分らでやるのは厳しいよ。うん、あと5分くらいでホテルつくから」




「あ、彼、俺の昔からの友達で東京から来てくれたんですよ。一緒に相馬まで行ってきたんです」
「ボランティアで来られたんですか?」
「いえ、遊びに。何か失礼な言い方ですけど」
「いいえ、ちゃんと見ていって下さいね。今着ているこのTシャツ(後ろにがんばろう福島だったかな?)もチャリティで買ったんですよ」
「このお店は地震大丈夫だったんですか?」
「いえ、もう大変でしたよ。その時はとてもまた営業できるようになるとは思いませんでした。でもみんなが協力してくれて」
 
 
「助け合いですよね」
「困った時はお互い様ですからね」
「がんばりましょう。ほら、福島東北人はあったかいんだよ(笑)とりあえず生ビール二つ」
「はい」
「おい、何食べる?」
「牛タン食ってからたいして時間たってないが、あ、壁、ちょっとヒビ入ってる、つうても表面の塗装が剥げちゃってるだけか、シシャモある?」



「そういえばさ、俺、地震の時、仙台市内のビルの七階にいたんだけどさ、もうすごい揺れで、電気は切れるは、天井は落ちるわ、でも、ほら、少し前に結構でかい地震あったじゃん、俺、最初、あれの余震だと思ったんだよ。で、近くにいた人にそれを言うと、"まったく揺れが違います、駄目だ!"てその人叫んで。瞬間死を意識したよね。おばあさんが座って数珠だして祈りを始めるし。で、揺れも随分長かったけど、ようやくおさまって、外に出ると、ガラスは散乱してるわ、路上にうずくまって泣き叫ぶ人はいるわ、これは現実か?と」
 
 
 
「でも、思うんだけどさ、どの建物も中は結構ひどかったと思うんだ。でも建物自体はあの地震をはね返したからね。日本の今の耐震技術は凄いよ」
「仙台、街に活気あったよね」
 
 
「うん、復興に向けてね。福島はさ、どうしても原発の問題があるから、先が見えないんだよ。俺はまだいいよ、仕事も問題ないし、逆に忙しくなったくらいだし。でもほとんどの人はさ、先が見えないんだよ。とにかく原発の事故を何とかして欲しいよ。放射能漏れ続けて復興できるかよ」

「でも怖いのはこれからだよ。まだ心に残っている希望が完全に壊れた時が。自殺する人も増えてるんだ。生きるすべを全部奪われたら死ぬしかないよね。だから国とかさ、無責任にできもしないことだけは言って欲しくないよ。眉唾だと思っても、もうそこに希望を持つ、持たざる得ない人が沢山いるんだよ」

 
 

「ありがとうございました」
「がんばって下さい」
「な、もうちょい飲もうぜ」
「いいけど、外あんまり人歩いてないな」
「田舎の平日の夜だぜ、こんなもんだろ」
「かな?」
「んじゃ、そこに飲み屋あるからさ、そこ行こうぜ」
「ああ、いいよ」
 


「最後の焼きそばはいらなかったんじゃないか?」
「かもしれん」
「あのさ、たとえばさ、あの側溝のとことか放射線量高かったりするのかな?」
「はかったわけじゃないからあれだけど、可能性はあるよね。ああいうとこに溜まるからね」


「でもいいとこだね」
「いいとこだよ。あ、このお店のお菓子凄くおいしいんだよ」
「ほー何か有名なの?」
「ここさ、俺が生まれた町なんだ。小学校入ったくらいまでここにいた」
「そうなんだ。あれ?あっちの空だけ異様に明るいね」
「ああ原発のほうだね」
「へーやっぱり昼夜たがわずの作業か?」
「いや、さすがに違うだろ。別の光だよ」
 
「でもさ、もしかしたらさ、微量の放射線は体にいいって話あるじゃん。何十年かしたら福島だけ異様に長寿になってるかもしれないよ。長生きしたけりゃ福島にいけ!って世界中の人が我も我もと福島を訪れる。福島大人気になってるかもしれないよ。て、俺も無責任なこと言ってるな」
「お前は国じゃないからいいだろ」
「だな」


「しかし今日は早朝からひたすら移動し続けたから結構きてるな。明日はどうする?」
「まあ何か考えとくよ。じゃあ俺は運転代行呼んで帰るから」
「おう、今日はありがとう」



・・・・・・・・・
 


さて、ラジオ。

高校野球福島予選準決勝。郡山の球場で、昨日の雨をうけての再試合と。
あ、やっぱり昨日はかなり雨降ったんだ。
で、今日も局地的な大雨が予想されると。
まあ局地的つうてんだから、そこにぶちあたらないことを期待しよう。
んでは出かけますかね。

まだ来てないか、待ち合わせにはちょっと早いしな。
ま、何週間かぶりの休みをわざわざとってもらって悪いんだけど。
しかし暑いね福島。

んーでも昨日のお店の人。
避難所や仮設住宅でこれから必要になる物資のことをかなり詳しく話てくれたけど、こっちから話をふらなかったらそんな話たぶん自分からはしなかったよな。
みんな個々で当たり前に自分が出来ることをやってるんだろうな。

あ、来た



「で、4時過ぎくらいに郡山にいたいんだよな」
「できればね」
「つうわけでだ、福島市の西にさ、磐梯吾妻スカイラインつう紅葉がきれいな、まあ夏もこれからだけど、そういう有料道路があるんだけど今無料開放されてるんだ、そこ通って猪苗代湖に行って、ぐるっとまわって郡山に行けばちょうどいい時間になると思うんだ。米沢とかも考えたけど反対方向だからさ」
「んじゃ、それで」



「でもさ、最初に原発の事故を知った時はどう思ったの?」
「それどころじゃなかったよ」
「ん?」 
「だってさ、ライフラインが全部駄目で食べるものもないんだよ。今日明日を生きることで精一杯だったから原発の事故を気にする余裕なんてなかったよ。あくまで俺の場合は、だけどね。そーいえばさ、地震の時お前はどうだったの?東京も地震すごかったんでしょ?」
 

 
「ま、こっちと比べりゃとは思うけど、無茶苦茶怖かったよ。さすがにあんな揺れは体験したことなかったし。あ、そうだ、その直前なんだけどね、俺がすんでるアパート、外に共同の洗濯機とランドリーがあるのね。ちょうどその時洗濯しててさ、両手ふさがってめんどくさいから扉のロックをわざと出して、半開きじゃないけど引っ掛ける状態にしてたのね。足とかで開けられるように」

「そしたらいきなり何処からかドリルで穴開けてるような振動音がし始めてさ、最初どこで音が鳴っているのかわからなかったんだ。で、これ、この扉が鳴っているんだ、と、気づいたけど、もちろん何で鳴っているのかもわからなくて、で、しばらくするとその鳴りもおさまったからさ、不思議だなと思いつつも、まあいいかと扉をしめて、そしたらしばらくすると揺れがはじまって、まあそのうちおさまるだろうと思ったけど、おさまらないどころか、どんどん揺れがひどくなっちゃって、あわてて外に出たらもう周りの建物があきらかに揺れてるしさ、コレハヤバイと声にだしていっちゃったよ」

「で、その夜が、川越街道も凄い渋滞、歩行者の列もとぎれない、レンタカー屋も長蛇の列でさ。後で聞いたら、20~30キロ歩いて帰ってきたってザラみたい」




「あんまり車走ってないな、無料なのにな」
「まあ平日だしね」
「でもここは観光地なんだよ。でだな、ここをもう少しいくと、つばくろ谷という、紅葉が非常に美しい、まあ夏もこれからだけど」
「それもあるんじゃない?」
「まあシーズンではないな。で、んな風光明媚な場所があるからさ、ちょっとそこに寄ろうよ」
 


「おお、すげー、つうか、こえー、この谷どんくらいあんの?バンジーできそ、百メートルくらい?もっと?つうか、目測ってなにげにあんまりあてにならんよね、んー確かに紅葉の時に来たらさらによさそー、でもさーああいうとこにあんなデカイ橋架けるんだから凄いよねー。ちょい橋から下の写真撮ってくるー」

「なに橋の上をあっちこっちとフラフラ徘徊してんだよ、あらぬ誤解を受けるんじゃないかと心配したじゃないか。まあ、物凄いへっぴり腰で手だけ伸ばして下の写真撮ってる姿見て、ああ、大丈夫だと思ったけどな。で、撮れたの?」
「うん、欄干がばっちし」



 
  


「でさ、この道ちょうどのぼりきったあたりに浄土平という、あ、ここらあたり熊でるから」
「え!熊出んの?」
「普通に出るよ。で、浄土平という場所があってだな、そこは火山性のガスが発生してるせいで樹木が生きていけないんだ」
「ほー」
「結構幻想的な風景だよ。そこにレストランあるからさ、そこで飯食おうよ」

「ホントだ、危険!火山性ガス発生!みたいな看板もたくさんあるし、風景一変、荒涼としてきたな」
「うん、ここで窓あけるとガスで危険だよ。で、もうちょいで着くから」
「何か見るトコあるの?」
「吾妻小富士つうて、富士山のミニチュアみたいな山に登れるよ」



「この駐車場も無料か、ホントにどこも無料なんだな。それなりに車はとまってる、ん、やっぱり福島ナンバーが多いか?つうても県外もちらほら、まあ、どこも割合的にはこんなもんかな?でも、このスカイラインが現在無料とか県外の人に知られているのかね?」
「どうだろう、で、どうする?」
「とりあえず登ろうよ、あれだよね」

 



「こうして見ると隕石でも落下したみたいだけど、これってもともと火口なんだよね?」
「だろ、よく知らないけど。あっちの山はまだ噴煙あげてるし」
「でも昔の人の浄土のイメージってこんなんなのかな?浄土って極楽だよね?ここはどちらかと言えば賽の河原のような」
「このあたりだけじゃないからさ。湿原があったり、五色沼って不思議な沼があったり、浄土平は自然豊でね。あとはまあ、ここから見る紅葉がホントにきれい。まあまだ夏もこれからだけどだ」
 
「秋にもう一度来い、と(笑)」
 
「ところで何でそんなへっぴり腰で写真撮ってんの?もっと近づいて撮れば?」
「いや、落ちたら」
「大丈夫、落ちねえよ」
「いや、わからん」
「つうか落ちたってそのへんにひっかかるって」
「いや、ひっかからんかったらどうする」
 
「これふちにそってぐるっと一周できるけど、どうする?」
「いや、飯食おう」

 
  

「何でかしらんが、いつもここにくるとソースカツ丼食べちゃうんだよ」
「ほーじゃあ俺もそれにするか、でも今んとこ雨降らんでよかったね」
「何か降りそうではあるんだけどね、後はここ反対方向に下っていけば猪苗代に出るから」
 
「しかし昨日から考えると福島ってデカイよね、九州なら何県突き抜けてるんだか、てな距離走ってるよ。まあ九州の上の方の話だけど。ところで猪苗代って、会津とかにも行けるのかな?」
「4時前後に郡山にいたいんだよね?会津はちょっと遠いな」
「遠いかい?」
「うん、でもこないだ会津遊びに行ったんだけどさ、まあ閑散として閑古鳥鳴いてたわ。観光客いなかったよ。会津は放射能関係ないんだけどね。少なくとも関東とかとたいしてかわらないよ」
 
「放射線量の高低てさ、山とかも関係するのかな?」
「んーどうだろう、関係ないことはないだろうけど、やっぱり風と雨じゃないかな。水素爆発の時に大気中にばらまかれた放射能が風で運ばれて、雨で地面に落ちて、低いところに水たまりとしてたまって、それを土が吸収してしまったってのがほとんどじゃないかな。じゃ、行くかい」




「あ、猿」
「え、猿?」
「ほら、猿」
「ほんとだ猿」
「ん、あそこにも猿」
「あれ?あれも猿?うわ、猿。猿。猿。すげーいる。顔赤」
「え、でもなんで猿」
「猿だから猿だろ」
「いや、何でこんなところに猿?」
「だってここ熊でるんでしょ?猿がでてもおかしくは」
「熊はでるよ、でも猿がでるなんて聞いたことないよ」
「熊の方がでられても困ると思うけど」
「大丈夫だよ、よっぽど腹減ってないと人間なんて襲わないよ。しかし猿がこんなところにいるか?」
「あれじゃない?車の交通量が減って猿が進出してきたとか」
「いや、そもそもここ猿がいるには標高高すぎだろ。上に行くにしたがって餌少なくなるんだからさ」
「ほーなるほど」



「もう少し行けば猪苗代湖見えてくるから」
「あれ?今止まってたパトカー石川県警って書いてあったような?」
「ああ、応援で来てくれてるんだよ。震災直後はもっと多かったけど、今でも原発の避難区域の警備で県内の警察は人手不足なんじゃないのかな」

 
「しかし、福島はどこに行っても田園風景だね」
「米どころだからね、みんな夜明け前から大切に育ててるんだ。お、ほら、目の前、あれ猪苗代湖だよ。で、会津はあの山の向こう」
「また山越えるのか、やっぱり福島はでかいな」
「ちょっと猪苗代湖畔を走るか?」
「ぐるっと一周とか」
「できねえよ、猪苗代湖でけえぞ」 

 



「このへんヘビでるから、って、ヘビじゃねえか」
「うわマジだ、おいおい」
「あとマムシもでるから気をつけろ。でも水は温かいな、これ泳げるよ」
「何か遠浅な感じでよさげだね」
「いや、いきなりストンと深くなったりするんで、指定された場所以外で泳ぐのは結構危険だよ。あ、ヒグラシ鳴いてんな」
「これヒグラシって言うんだ?」
「うん、秋のセミなんだけど、このへんは涼しいからね」
「ふーん、東京はさ、7月も終わろうつうのにセミ鳴いてないんだよね、蚊もあんまいない。しかし、いいとこだね、福島」
  

 
「いいとこだよ。でもね、やっぱり考えるよ、もう一度原発で爆発があったらどうしようって。俺は福島好きだからさ、ここで頑張る、放射能なんかに負けねえって、そう思うけどさ」

「でも、もし、また、あの水素爆発みたいなことがあったらさ、それでもそう言えるのか、やっぱり考えるよ。もちろんわかるよ、そのおかげで現在こんなに快適で豊かな生活ができてるって。それはわかる」

「だから俺はさ、あの福島の原発を世界遺産に登録してほしいよ(笑)豊かで便利な生活を追求した結果、人間はこんなことをやらかしちゃいましたって、世界遺産に登録して永遠に後世に残してさ。だってこんなこと一度で十分すぎるだろ。そこは肝に銘じた上でさ、快適で豊かな生活を追求してほしいよ」

「さて、もうちょい時間あるな。ここに来る途中に野口英世記念館てのがあったじゃん、ちょいあそこによろうよ。それでいい時間だよ」




え?これ野口英世の生家?
移築とか再現とかでなくここがそうなの?
んで、あれが、かの有名な囲炉裏?
ほー、いやね、ま、そんなにね、野口英世のイメージてもともとないんだけどね。
もっと、なんつうかね、雪深い山奥の小さな家を想像してたんだけどね。
まさか猪苗代湖畔のこんな開放的な場所にあるなんてね。
まあ、もちろん、来た時の季節とか天候とか時代によってイメージなんて変わるもんなんだろうけどね。
しかし、ずいぶん明るい感じがするところじゃないか。
しかも思ったよりも家でかいし。
ん、ここに書いてあるか?
この家屋はだいたい二百年前の江戸時代につくられた、ほー。
でも、これが、当時のこのあたりの農家の一般的な大きさなのかな?
あれかな?柱とか梁とか太いけど、 

「なあ、このくらいの大きさの家じゃないと冬の積雪にたえられないのかな?」
「どうだろう?でも、俺らが今越えてきた山の向こうの福島市とかはそうでもないけど、このあたりは確かに雪結構積もるよ」

「え?福島の中だけでも気候ってそんなに違うの?」
「かなり違うよ、福島市なんてたいして雪つもんないよ。でもこのへんは豪雪地帯じゃないかな?だからこのへんの民家って雪が屋根の上に積もらないように三角形、すごい急勾配になってんだよ」
「そうなんだ」
「車で走ってれば普通に見れるよ」

「でも、この野口さん紹介のビデオ、随分と、これから、ってところで終わらない?」
「ここから成し遂げた業績は展示室で観てくれってことじゃない?」
 
 
このボタンを押すと身振り手振りでいろいろ説明してくれる、妙にリアルでちょっと怖い野口英世ロボット。

「なあ、ここ押すと、野口さん何か毎回違う人生のアドバイスをくれるらしいぞ」
「マジですか。んでは早速ポチッとなと」
「ありがとうございました、肝に銘じます(笑)」
 
(内容はすっかり忘れました、一切肝に銘じていません) 
 
「んで、どうする、そこでラーメンでも食う?」
「まだ入らんよ」
「んじゃ、郡山に向かうか?今から向かえばちょうど4時前後に着くんじゃないかな」
「そうしよう、でも結局雨降らんでよかったよね」


 
「ここが郡山開成山公園。ここに野球場もあるんだよね?」
「あるよ、何で?」
「いや、朝のラジオでここで甲子園の予選の準決勝がおこなわれてるって、まあ、もう試合終ってるだろうけど、でも二日間どうもありがとう」
「おう、気をつけて」
「そっちも事故るなよ、またね」


わ、雨むちゃ降ってる。な、快速な帰り道でした。



・・・・・・・・・



追記:現在の(2013/11/06)記憶たよりで書くので、不正確さは増しますが
 
そういえば「この時、車のありがたさが本当によくわかった」と友達が言っていたのを思い出しました。
 
この日は寒く電気も止まっていたけど、車で暖がとれた。
またカーナビでテレビが見れたので、それで詳しい状況が理解できた。
津波のことは、それで初めてわかった。
 
そのような話だったと思います。
 
ラジオ、テレビなら車で早い段階で聴けた、見れた、と思いますが、そこらへんの僕の記憶はあいまいです。
ただ津波の映像を車のカーナビで見たのは結構あとだった、そう言っていたと思います。


あと、確か、「今福島は結婚する人たちが増えてるんだ」。
そう言ってたような。


No comments:

Post a Comment