「でもあれだね、このあたりはまだ道路通行止めって多いんだね」
「え?ああ、あの看板?あれ違うよ、震災直後に道路を通行止めにして、そのままなんだよ」
「え?そうなの?」
「だって普通に車通ってるじゃん、看板よけながら」
「あ、ほんとだ」
「雨降ってきたな。もう被災地はいいよね、車でウロウロするのはいい気分しないよ。とりあえず仙台に行くってことで」
「遠いの?」
「このまま六号線北上して四号線に入って二時間くらいかな?」
「仙台も地震の被害すごかったんだよね」
「うん、俺は地震の時仙台市内にいたんだけどさ、もうわけわからなかったよ。本震だけじゃなくて余震もでかいのが次々とおこってさ。でも地震ですぐに仙台の街全体が停電になっちゃったけど、俺が停めてた駐車場のゲートが手動で開くとこでラッキーだったよ。それで身動き取れなくなった人も結構多かったからね」
「で、急いで福島帰ろうとしたんだけど、道路も被害うけてるし、大渋滞だし、でかい余震は続くし。普通、車運転してたら地震って気づかないこと多いじゃん、もうはっきりわかったからね地面揺れてるのが。それに家族に連絡しようとしても電話は通じないし、ホントに何が何やら、仙台空港に向かう道には凄い数の警官がいるしさ。とんでもないことになってる、てことはわかったけどさ」
「仙台は津波の被害も」
「うん、すぐそこまで被害にあってるよ」
「そういうのって」
「わかんないよ、市内も地震直後は混乱しまくってたし、少なくとも俺はわからなかった」
「じゃあ、もう本当にわけもわからないうちに津波に巻き込まれた人も沢山いたんだろうね」
「俺がね、福島に帰ろうと、この辺りに来たときはもう夜だったんだ。真っ暗。車のライトくらいでさ。でも友達がまだ明るい時間にこの道を通ったんだ、そうしたらたくさんの人がね。俺は通るのが夜になってよかったかもしれない。ところでさ」
「ん?」
「お前生まれ長崎だよね」
「うん、長崎市じゃないけど」
「原爆」
「うん」
「いまでも原爆の差別とかあるのかな?」
「聞いたことある?今の話として」
「ないけど」
「ないよ。まったくない」
「今日は車降りると雨止んで乗ると降るな、逆じゃなくてよかった。でも仙台、地震直後の話聞いてたからもっと被害が残っていると思ってたよ」
「この辺は中心地だからね、復興は早かったよ。それに日本の建物は基本地震には強かったんじゃない?」
「あれは違うよね?」
「あれは七夕祭りの準備だね。駅ビルの地下にレストラン街あるからさ、何か食べようよ」
「ここでいい?牛タン」
「いいよ。あ、ビートルズかかってる。しかも中期。誰もかれもがビートルズ。あれかね、その再結成てので皆思わず、な、わけないよな」
「うん、当然好きで聴いてるんじゃない?まあこれは店のBGMだけど」
「そりゃそうだよね。あ、そういえばツイッターでさ」
「あれ?ツイッターやってんの?俺は何が楽しいのかわかんないんだけど」
「うん、別にやんなくていいと思うよ。んでさ、俺も基本フォローしてる人のツイートを読むくらいなんだけどさ、そこに、リツイートでだったかな?"音楽に疲れたらビートルズを聴く"、てのがあってさ、我々は疲れているのでしょうか?」
「疲れているだろ」
「そりゃそうだ(笑)」
「あ、お前YouTube消した?何か自作の曲アップしてるとか言ってたじゃん。覗いたけどなかったぞ」
「あれ移動したんだ。東京帰ったらアドレスメールするよ。ま、別に新しい曲アップしたわけでもないから無理して聴かんでもいいけど」
「で、アップして何か世間的に反応あったの?」
「海外から小反響があったよ。ほぼスパムだけど。でも三四人は本当に気に入ってくれたみたい」
「でさ、帰りなんだけど、高速で帰ろうと思うんだ。でもどうかな?今福島県民は被災証明書を提示すれば高速料金無料なんだ。だからみんな高速を利用して逆に渋滞しちゃってるかもしれないんだよね」
「平日だし、大丈夫じゃない?」
「スムーズに流れてんじゃん」
「だね。でもね、この高速道路も地震で被害うけたんだけど、この道が文字通り震災直後の福島の生命線だったんだ。この道を運ばれてくる物資で生きのびた、みたいな。もちろん今でもだけど」
「やっぱり電気とかライフラインは全部駄目だったの?」
「場所によって違いはあると思うけど、俺んとこは復旧まで電気三日、水道一週間、ガソリン一ヶ月てとこかな?その日もやっとこさ家に帰り着いて、ロウソクの灯で生活するのはまだよくて、水がとにかく貴重で一週間手も洗えなかったのがきつかったね」
「とりあえずホテルに送ってくからさ、で、近くによくいく居酒屋があるからそこで飲もうよ。車は代行頼むから」
「そのへんだとやっぱある程度線量高いのかな?」
「基本的に水素爆発前の三十倍くらじゃないかな?今、俺が頭で計算してみてだけど。もちろん溜まっちゃうとこはもっと高いと思うよ。だからさ風通しがいい場所で放射線量はかってもあんま意味ない気もするんだよね。もう地べたの風通しが悪そうな場所ではかんないと。そういうとこが高いんだから」
「テレビとかで今日の放射線量とか細かくやるわけ?」
「細かくはないね、かなり大まかだよ、細かくは町内会の回覧板とかでやるしかないみたい」
「で、自分で家の線量はかったんだよね」
「うん、検査するやつ人に借りてね。あれ結構値段高いんだよ。で、45マイクロシーベルト」
「はかり間違いじゃないの?」
「だって数値で出るんだよ。体温計みたいなもんだよ。つうても本当に庭のごく一部、吹き溜まりみたいなとこがピンポイントで高くなっているんだけど。ま、そのピンポイントが庭に何カ所かあるんだけどさ。でもそれ以外は本当にそこまででもないんだよ。家の中は線量ガクッとさがってさ、0.2マイクロシーベルト位。外は呼吸してるレベルでそれの約6倍くらいかな。まあ、あくまで俺の生活環境レベルの話だけどね」
「除染は?」
「現実問題、自分らでやるのは厳しいよ。うん、あと5分くらいでホテルつくから」
「あ、彼、俺の昔からの友達で東京から来てくれたんですよ。一緒に相馬まで行ってきたんです」
「ボランティアで来られたんですか?」
「いえ、遊びに。何か失礼な言い方ですけど」
「いいえ、ちゃんと見ていって下さいね。今着ているこのTシャツ(後ろにがんばろう福島だったかな?)もチャリティで買ったんですよ」
「このお店は地震大丈夫だったんですか?」
「いえ、もう大変でしたよ。その時はとてもまた営業できるようになるとは思いませんでした。でもみんなが協力してくれて」
「助け合いですよね」
「困った時はお互い様ですからね」
「がんばりましょう。ほら、福島東北人はあったかいんだよ(笑)とりあえず生ビール二つ」
「はい」
「おい、何食べる?」
「牛タン食ってからたいして時間たってないが、あ、壁、ちょっとヒビ入ってる、つうても表面の塗装が剥げちゃってるだけか、シシャモある?」
「そういえばさ、俺、地震の時、仙台市内のビルの七階にいたんだけどさ、もうすごい揺れで、電気は切れるは、天井は落ちるわ、でも、ほら、少し前に結構でかい地震あったじゃん、俺、最初、あれの余震だと思ったんだよ。で、近くにいた人にそれを言うと、"まったく揺れが違います、駄目だ!"てその人叫んで。瞬間死を意識したよね。おばあさんが座って数珠だして祈りを始めるし。で、揺れも随分長かったけど、ようやくおさまって、外に出ると、ガラスは散乱してるわ、路上にうずくまって泣き叫ぶ人はいるわ、これは現実か?と」
「でも、思うんだけどさ、どの建物も中は結構ひどかったと思うんだ。でも建物自体はあの地震をはね返したからね。日本の今の耐震技術は凄いよ」
「仙台、街に活気あったよね」
「うん、復興に向けてね。福島はさ、どうしても原発の問題があるから、先が見えないんだよ。俺はまだいいよ、仕事も問題ないし、逆に忙しくなったくらいだし。でもほとんどの人はさ、先が見えないんだよ。とにかく原発の事故を何とかして欲しいよ。放射能漏れ続けて復興できるかよ」
「でも怖いのはこれからだよ。まだ心に残っている希望が完全に壊れた時が。自殺する人も増えてるんだ。生きるすべを全部奪われたら死ぬしかないよね。だから国とかさ、無責任にできもしないことだけは言って欲しくないよ。眉唾だと思っても、もうそこに希望を持つ、持たざる得ない人が沢山いるんだよ」
「ありがとうございました」
「がんばって下さい」
「な、もうちょい飲もうぜ」
「いいけど、外あんまり人歩いてないな」
「田舎の平日の夜だぜ、こんなもんだろ」
「かな?」
「んじゃ、そこに飲み屋あるからさ、そこ行こうぜ」
「ああ、いいよ」
「最後の焼きそばはいらなかったんじゃないか?」
「かもしれん」
「あのさ、たとえばさ、あの側溝のとことか放射線量高かったりするのかな?」
「はかったわけじゃないからあれだけど、可能性はあるよね。ああいうとこに溜まるからね」
「でもいいとこだね」
「いいとこだよ。あ、このお店のお菓子凄くおいしいんだよ」
「ほー何か有名なの?」
「ここさ、俺が生まれた町なんだ。小学校入ったくらいまでここにいた」
「そうなんだ。あれ?あっちの空だけ異様に明るいね」
「ああ原発のほうだね」
「へーやっぱり昼夜たがわずの作業か?」
「いや、さすがに違うだろ。別の光だよ」
「でもさ、もしかしたらさ、微量の放射線は体にいいって話あるじゃん。何十年かしたら福島だけ異様に長寿になってるかもしれないよ。長生きしたけりゃ福島にいけ!って世界中の人が我も我もと福島を訪れる。福島大人気になってるかもしれないよ。て、俺も無責任なこと言ってるな」
「お前は国じゃないからいいだろ」
「だな」
「しかし今日は早朝からひたすら移動し続けたから結構きてるな。明日はどうする?」
「まあ何か考えとくよ。じゃあ俺は運転代行呼んで帰るから」
「おう、今日はありがとう」
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